2002年9月、日本にとって、いや世界にとっての歴史的会談が行われた。日本の小泉首相と北朝鮮金正日総書記との会談である。日本の首相として初めて北朝鮮を訪問した小泉首相に課せられた問題は、北朝鮮による日本人拉致疑惑の解明である。非常に厳しい表情でその地に降り立った小泉首相に対して、北朝鮮は金総書記ではなく、ナンバー2と言われている人物が出迎えるという、ある意味日本にとって屈辱的な幕開けとなった。そして午前中は日本側の主張を、そして午後からは北朝鮮側の主張を述べるという形で、会談は進められたようだが、結果、拉致問題に関して、北朝鮮はその疑惑を認め、11人の被害者のうち3人が生存、残りの8人はすでに亡くなっているという調査結果を示した。そして来月(2002年10月)より両国の国交正常化に向けての話し合いを再会するというピョンヤン宣言で幕を閉じた。
さてこの歴史的会談が終わってから連日マスコミはこの問題を取り上げ、拉致問題を中心に考えながら、今回の訪朝の評価をしていた。もちろん結果は、皆が知るように、ほとんどの番組で、今回の訪朝の成果に対して否定的な見方が主であった。つまり簡単に言ってしまえば、今回の会談は失敗だという意味であろう。それは拉致被害者のさらなる具体的な情報が手に入らなかったこと、そして補償問題や、生存者の帰国についての話がついていないなどが主な原因であろう。しかしながら、今回初めて訪朝し、さらにたった1日だけの会談で、そこまで皆が期待していたのであろうか。当初は、拉致被害者の安否を知りたい程度の希望があっただけだったと思うが、いざふたを開けてみると、次から次へと要求が増えてくる。もちろん当事者の気持ちを考えれば、その全容解明は必須であると思うが、それでもこの1日だけで片が付くとは思えない。そして片が付かないとなれば、一斉に声を合わせたように批判に走る。私の目から見た場合、今回の会談について言えば、小泉首相は100%の出来だったのではないかと思う。北朝鮮側にしても、情報の正確性は分からないが、少なくとも拉致を認め、たとえ口頭であったとしても謝罪を述べたことは、これからの両国の関係にとって大きな進歩であったと思う。
確かに訪朝前、小泉首相は、「拉致問題の解決なくして、国交の正常化はない」と明言し、そして会談に臨んだ。それゆえ有言実行、必ずその解決を実現しなくてはならない。その第一歩が今回の会談であったわけだ。その意味で今回の会談を見ると、それに相応しい成果は上がっていたはずだ。何も非難を受けることはない。なぜならば、今も述べたように、まさに第一歩を踏み出したところだからだ。これからが正念場で、この拉致問題を解決してから、国交正常化が成り立つのである。にもかかわらず、マスコミの報道をみていると、あたかも小泉首相が、拉致問題の解決よりも国交正常化を先行したような言い方をしている。つまり「国交正常化→拉致問題解決」という構図が一般に広まりつつあるのだ。しかし本来はその逆で、「拉致問題解決→国交正常化」という構図を小泉首相は主張しているのである。それならば、現時点でそれは正常に進んでいるわけで、なんら問題はない。むろん早期解決を望む気持ちは皆と同じであるが、今まで全くこの問題に手を触れなかった代々の首相に比べれば、飛躍的な進歩ではないか。それを批判・非難することで、マスコミは何を求めているのか。今の報道は、折角、そしてやっと始まった歴史的事件の解決の芽を、摘んでしまいかねないように思える。今後の行方をもっと暖かく見守ってみてはどうだろうか。この問題が解決し、そして両国間の国交が、正常化されるようもっと応援してみてはどうだろうか。すべての評価を下すのはまだ早い。今後の首相の動向をじっくり見ていきたい。
( 2002/10/07 )