光源氏の亡き後、その面影を継承できる人は繁栄する源氏―門にもいなかった。 ただ当帝の三宮で明石中宮腹の匂宮と、光源氏の二男で女三の宮腹の薫とがそれ ぞれ立派であると評判が高い。夕霧は時の実カ者として一族の世話をし、女三の 宮はじめ残された人々も落ち着いた生活を営んでいる。しかし光源氏の在世中に比 べれば世の中は火が消えたように思えた。薫は冷泉院の親代わりの世話で美しく 成人し、仏身を思わせる芳香を身につけて、世の寵児であったが、おのれの出生 に不安を抱くことから出家の希望を持っている。匂宮は薫の芳香を妬み薫物に熱 中するなど対抗心が強いが、ふたりは仲の良い友人で、世人は「匂う兵部卿、薫 る中将」と称えた。夕霧はわが六君と匂宮の縁組を望み、彼等の気を引くべく華 やかにかしずくが、色好みの匂宮はかえって冷泉院の女一の宮に熱心である。薫 は現世の絆を増すことを恐れて結婚を避けているが、三条の宮には薫を慕う多く の女性がいる。