五十四帖梗概
御 法
〜The Law〜


 紫の上はあの「若菜下」の大病以来年月を追って衰弱し、出家をしようとする が、源氏は紫の上と離れがたく、執着を恐れて許さない。三月十日の花盛りに二 条院で法華経千部の供養が行われた。紫の上は死を予感して明石の君や花散里と 歌の贈答をする。夏の暑さに紫の上の病勢は増し、見舞いに訪れた明石中宮にそ れとなく後事を託し、匂宮に二条院を譲る約束をして紅梅と桜とを残しておいた。
 秋の夕暮れ、紫の上は源氏や明石中宮の見守る中に露が消えるようにはかなく 息を引き取った。源氏はせめてもと亡骸ながら受戒させようとした。源氏は燈を 揚げてその死顔に見入り、呆然として、夕霧が近づくのをもはや制しようともし ない。夕霧も「野分」以来忘れることのできないその美しい容姿を見て衝撃は大 きい。八月十四日のことであり、翌日葬送が行われた。源氏は愁傷して出家を決 意したが、衝撃的な形になることを避けて、しばらくは悲しみに耐えることにし た。致仕大臣や秋好中宮などの弔問が続く。