五十四帖梗概
真木柱
〜Makibashira〜


 源氏は事態を秘密にしておこうとした。実は玉鬘が髭黒のものにな っていたからだ。源氏ははなはだ残念に思うが、しかたなく養父として式の支 度をする。髭黒は、自邸を修復したりして、玉鬘を引き取る準備を始めた。北の 方は、式部卿宮の愛娘であったが、最近もののけがついて、そのために夫との仲 がうまくいかなかった。式部卿宮は、世間体も考えて、自分の邸に娘を引き取る ことにした。離婚を迫られた髭黒は、一応北の方をあれこれと慰める。しかし、 夫の外出のために衣に香をたきしめていた北の方は、突如、火取を髭黒の背にふ りかける。髭黒は玉鬘のもとへは行けなくなってしまう。歌を贈るが、返事は ない。彼は翌日の夕方北の方をおいて出ていった。
 これを聞いた式部卿宮は、急避北の方を迎えによこした。髭黒の愛娘の姫君 はこの邸を去るのを悲しみ、柱の割れ目に、「真木の柱はわれを忘るな」と一首 の歌を残した。官邸では、母北の方はてっきり源氏が糸をひいているものと考え て憤慨していた。さて、髭黒は帰邸してその真木の柱を見ると、さすがに涙を禁 じえない。式部卿官邸に行って北の方や姫君たちに会おうとするが、宮さえも出 てきてくれない。仕方がないので、男の子だけを連れて帰ってきた。
 翌年春、玉鬘は入内した。髭黒右大将の権威は高まった。冷泉帝は玉鬘が気に 入ったようであるので、髭黒は気が気でない。大急ぎで自分の邸へ引き取る。源 氏はそっと手紙を贈った。さすがに玉鬘の心は動く。源氏ももとの玉鬘の室を訪 れてみても、思い出は尽きずまた歌を贈る。髭黒の男の子たちは玉鬘になついて いたが、真木柱の姫君だけは父に会えない。十―月には玉鬘に子供が生まれ、そ のころ近江君にも女心が芽生えた。ふとみかけた夕霧に近付いて、例の調子で夕 霧を辟易させるのだった。