生物学者 ・ 福岡伸一先生 は、 「 藝術と科学のあいだ 」 といういう
コラムをN新聞に掲載しています。
” 色褪せた名画の背景にある科学 ” と ” 絵画修復は情報の上書き ”
の2編が興味を惹きましたので取り上げさせて頂きました。
◎ フェルメール 「 絵画藝術 」 ◎
ウイーンの美術史博物館の壮麗さは際立っている。
いくつもの部屋を抜けて中に向かうと、フェルメールの 「 絵画芸術 」
がある。
この絵にはさまざまな企みが仕組まれているから、早くオリジナルが
見たい。
画家が女性のモデルを立たせて絵を描きはじめている。
その後ろ姿の画家はフェルメール自身に他ならない。
凝った服装の彼は真っ白なキャンパスにデッサンも下絵もなく、
いきなり女性が頭にかぶった月桂樹の冠から筆を入れる。
女性の手には分厚い歴史書。壁には世界に版図を広げつつある
激動期のオランダ地図。豪華なシャンデリア。高価そうな緞帳。
小さな展示室に入ると、私は一瞬たじろいだ。予想していたものより、
ずっと地味で、ぼんやりくすんですら見えた。
鮮やかな緑色だったはずの冠は、褪せて灰色になっていた。
美術館の修復担当の女性は、
「 古い絵の修復には難しい問題が含まれ、
私たちは解釈をしないよう自制しています。
時間とともに失われたものを取り戻すのではなく、これ以上の劣化を
できるだけ防ぎ、経年変化をありのままに受け入れる。
時間に対するこの考えは、私たちの街ウイーンのフィロソフィーと言って
いいかもしれません。 」 ( 原文より抜粋 )
右写真 : フェルメールの 「 絵画芸術 」 です。
◎ 修復されたキリスト像のフレスコ画 ◎
絵画の修復とは何だろう。 それは端的に言えば情報の上書きである。
そのときオリジナルは消える。
この修復“事件”はスペイン北部、サラゴサ地方のボルハ市の教会で
起きた。
会堂内の壁にある、およそ100年前に描かれたキリスト像のフレスコ画が
ひどく損傷してきたことに心を痛めた80代の老婦人が、自ら修復に
乗り出した。
彼女には多少の絵心があったそうだが、絵画修復は素人だったので、
はげ落ちた部分に着色しているうちに、調子が出てきたのだろうか、
全体を自己流に描きなおしてしまった。
出来上がった絵は、元の作品とは似ても似つかない代物となりはてた。
これは極端な例だが、古いものを見るとき私たちが常に心しなければ
ならないことではないだろうか。
( 原文より抜粋 )
右写真 : ひどく損傷したキリスト像と修復したキリスト像です。
もし、こんな見るに見かねない宗教絵画を見たら、絵心のない私でも
美しい姿に戻すことにチャレンジしたでしょう。
しかし、
「 時間とともに失われたものを取り戻すのではなく、これ以上の劣化を
できるだけ防ぎ、経年変化をありのままに受け入れる。時間に対する
この考え ・ ・ ・ 」 も考慮しながら、これからの充実した人生を
過ごしていきたいと思っています。
右写真 : 原作のキリスト像 と 修復したキリスト像です。
次回は、修復の必要ない 「 宗教画 」 を取り上げましょう !