大正から昭和にかけて活躍し、生誕130年を迎える 版画家:川瀬 巴水
(1883−1957) の回顧展が横浜高島屋で開催されました。
この展覧会は 「 故郷の日本風景 」 のキャッチコピーのもと、日本の各地に、
心ときめく風景を求め、生涯旅に生きた 川瀬 巴水 の作品が展示されて
いました。
右写真 : 鎌倉大仏 (1930年) をあしらった同展のパンフレットです。
◎ 川瀬 巴水 ◎
巴水(hasui)は幼いころから絵を好み、画家の道を志しますが本格的な
修業の開始は遅くすでに27歳になっていました。
転機となったのは1918(大正7)年、同門の伊東深水の作品を見て、
版画の魅力に打たれました。
以降、旅に出てはスケッチをし、東京に戻っては版画を作る暮しを
続けました。
巴水が選んだのは、かって日本のどこにでもあった風景でした。
生涯に残した木版画は600点を超え、 「 昭和の広重 」 とも称えられ
ています。
今やどこにも存在しない懐かしい ――郷愁の日本風景―― を楽しん
できました。
右写真 : 芝大門の雪 (1936年) です。
◎ 平泉金色堂の雪 ◎
この展示会場に入って目についた作品は、 「 東京二十景 : 御茶ノ水 」
(1926年) や 「 日本風景選集 : 尾道千光寺の坂 」 (1923年)
など 降る雪 をテーマにした素晴らしい作品群です。
なかでも、米国人 リリアン・ミラー の木版画 「 寺院の屋根の雪 」
に比べ、静かで繊細な冬の情景を表した 川瀬 巴水 の「 平泉金色堂 」
(巴水の絶筆)は、旅の終わりの 巴水の静謐な境地 が偲ばれます。
詩 : 林望 「夕暮れ巴水」 より抜粋
ふみしめてあるけば
あなうらがつめたい
でも、じっとしたをみて
きしきし
ゆきふみしめてあるく
かぎりのあるみちは
いつかきっとおわる
そう、こころにねんじて
きしきし
ゆきふみしめてあるく
作品: 「平泉金色堂」 と 詩: 「夕暮れ巴水」 を観賞していると、
降り積もる雪、静まり返る石段を進むひとりの僧侶の姿は、なにか 巴水
自身のように思われて仕方ありません。
右写真 : 平泉金色堂 (1957年) です。
寺院の屋根の雪(Snow on Temple Roofs)
女流木版画家 リリアン・メイ・ミラー の作品に、 「 Snow on Temple Roofs 」
(寺院の屋根の雪) があります。
川瀬 巴水 の雪景色も素敵ですが、この作者の雪景色からは日本人の感性
とは違った情景が浮かびます。
この作品は、静かな美しさだけでなく、ダイナミックな雪、少し怖い雪、
あるいは肉感的な感じの雪をイメージできます。
そして、降り積もった雪は、重みや強さを表し、躍動的な感じの雪を
思わせます。 如何でしょうか ?
右写真 : リリアン・メイ・ミラーの 「 寺院の屋根の雪 」 です。